高知県は農業が基幹産業で周辺部には今も広域にわたって農山村地域が広がっていますが、高度経済成長期 (1950年代の中頃からの20年間) の前の日本はというと、農村地域に住む人口が過半を占めていて農村的な社会でした。その中にあって、高度経済成長が農村から都市への大規模な人口移動によって推進されました。そして、日本は過疎・過密問題を伴いながら都市化された社会へと変貌してきました。
私たちの生活はこの高度経済成長期を経て大きく変わりました。この時期、身近な生活や生産の手段、生活風景は、ここで見る民具のような道具から機械へと大きく、急速に移行しました
いわゆる三種の神器(白黒テレビ・洗濯機・冷蔵庫)という流行語(1955年)でもって高度経済成長の開始が告げられたかのように、その後、私たちの家庭には三種の神器をはじめ炊飯器や掃除機といった電気を原動力とする機械が次々に入ってきました。また、家の外の田畑でも耕耘機をはじめガソリンで動く機械が、人力や動物を用いる道具に取って代わりました。
そして、ガスや電気に代表されるエネルギー源は、それまでの薪を燃料とする生活を一変させました。それまで多くの集落は共有林から燃料を得ていましたが、不要となり、その結果、管理されなくなった山林は荒れ、子どもたちにも容易には入れなくなりました。あの童謡の「故郷」にある「兎追いし彼の山やま」は子どもたちにイメージしにくいものとなりました。
地域にある民具資料施設の多くは、この高度経済成長とともに始まった地域や日常生活の急激な変化を前に、それまでの地域の生活を後世に伝えようと、使われなくなった用具を集めて作られたものといえます。
そこに展示されている民具からは、日常生活で使っている機械の機能面からのルーツを探ること、また現代生活での利用可能性を考えることができます。また、現在使っている道具に加え、そこで目にする実物を前にすれば、ほんの50〜60年前まで、その地域で何百年も続いてきた生活史を想像し学ぶことができます。
しかし、整理され、工夫された展示から多くのことを学ぶことができますが、その道具を実際に使ったことのある人から生の情報を入手することは困難になりつつあります。大づかみにいうと、後期高齢者(75歳以上)はこれらの民具を使った経験があり実演と口承可能な最後の世代、前期高齢者(65歳〜74歳)は子どもの頃これらを見て、記憶に残っている世代と考えられます。
民具資料施設は地域の生活史の実物が保管されている施設です。そこでは地域に住んでいる人びとの自分史を探ることができます。
★ 参考1:民具と地域社会
★ 参考2:地域の歴史を大切に活かし伝える ルンドのクルチューレン(スウェーデン)
★ 参考3:「豊かでやさしい昭和の知恵袋」(高知市春野郷土資料館企画展)ピックアップ
★ 参考4:田植えの風景とその用具(ころがし)
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*民具資料施設連絡先・住所一覧表
*この調査は、@高知県内にある民具(施設)の現況を明らかにすること、A地域にある民具(施設)を知り、地域の人びとが協力してその活用を探るための資料を提供することを主な目的に県内全民具保管施設を対象に実施しました。
〔今回調査できなかった公的施設〕
・土佐山民具倉庫(高知市):保管施設への入室が危険な状態のため。
・土佐市中央公民館及び生涯学習課倉庫(土佐市):土佐市教育委員会生涯学習課の調査協力が得られず。
*参考資料:
1)梅野光興「民族部門」『高知ミュージアム白書(2003年度版)』(高知県歴史民俗資料館)
2)坂本正夫「高知県の民具館・民具収蔵施設」『昔のくらしと道具』1999年(高知県歴史民俗資料館)
3)『月刊土佐』:第16号(1985年)特集「高知県の民具館〈上〉」
4)『月刊土佐』:第17号(1985年)特集「高知県の民具館〈下〉」
5)『月刊土佐』:第30号(1986年)特集「里の古民具」
6)「四国地区民俗資料収蔵施設一覧」2014年11月、(高知県担当は楠瀬慶太氏)